中岳から下る。行く手には巨岩の重なる宝剣岳が聳えている。その手前に小屋が二棟あって、手前が天狗荘で後が宝剣山荘なのだ。小屋に向かってザクザクの道を急下降する。小屋の前から右側に回りこんで行くと、宝剣岳の絶壁に巨岩がそそり立っている。よくみると天狗の横顔のようで、これが天狗岩なのだ。予想以上に大きなものである。
天狗岩を眺めてから、いよいよ宝剣岳の登りになる。この山では、冬に度々滑落事故が起きている。岩場の急峻な登りなのだが、困ったことに私の前には30人以上の団体が列をなして登っていた。穂高岳でのことを思い出してしまう。素人の団体のためにすさまじい渋滞になったのだ。
予想通り、渋滞になってしまった。急峻な岩場なので追い越すこともできない。待つしかないのだ。宝剣岳への登りは20分なのだが、この調子なら1時間もかかってしまうのではないかと、あきらめの気分。山頂直下でかなり待たされた。でも、これは山頂で記念写真をとるために時間がかかっていたのだ。山頂は本当に狭くて、2~3人立つのがやっとである。でも、この団体の世話人が、シャッターを押す役を引き受けていて、次々とカメラを預かって撮ってくれる。団体のメンバーではない私の分も撮ってくれた。
この団体は毎日新聞社が主催したもので、木曽駒から空木岳を縦走するツアーなのだ。そして意外にこのメンバーは健脚であった。私が宝剣山頂まで1時間かかるのではないかと思ったのだが、実際は25分で山頂に着いていた。かなり途中待たされることがあったにもかかわらずだ。
宝剣岳はこれからが本当に大変なコースで、岩場の急下降の連続なのだ。鎖場もあって、下を見ると目が回るような絶壁である。この急峻な岩場を下ってほっとすると、目の前にはまた岩峰が立ちふさがる。これを登って、ピークでは巨岩のトンネルをくぐり、再び険しい岩場を下る。足をどこに置いたらいいのかと悩んでしまうような岩場で、かなりきつい。団体の中でも経験の浅い人は立ち往生したりする。でも、この団体のサポーターはしっかりしていて、足がかり、手がかりを親切に指導していた。(穂高で会ったリーダーとは大違いだ。)
岩峰を越えると、ようやく行く手に平坦なピークが見える。ほっとしたが、そこまではもう一度急な岩場を下らなければいけなかった。
指導標の立つピークに着いたのは6時45分である。
このピークでは団体が全員休憩していて、大混雑であった。ここが極楽平と思っていたのだがそれは間違いで、三ノ沢岳の分岐なのだ。極楽平はもう少し先の、ロープウェイ千畳敷駅への分岐がそうなのだ。少しだけ休憩してすぐに出発した。この団体を追い越してしまいたかったのだ。
ここからは今までとうって変わって、緩やかな稜線歩きである。振り返ると巨岩の重なる宝剣岳が聳え、稜線の右には朝日を浴びた三ノ沢岳が堂々と聳えている。左下にはロープウェイ駅、千畳敷カールが意外と狭く見えた。
行く手には長く稜線が続き、その先にはアルペン的な急峻な山が聳えている。空木岳である。すばらしい眺めで、歩いていて楽しくなってしまう。
ほとんど平坦な稜線をのんびり歩いて行く。登山道の両脇にはロープが張られていて、お花畑を保護している。よく見るとウスユキソウがあった。中央アルプス駒ケ岳特有の花で、正確には「コマウスユキソウ」という高さ10cmほどの小さな花なのだ。ウスユキソウは日本のエーデルワイスとも呼ばれる。
極楽平に着く。左下には千畳敷カールとロープウェイ駅が見えた。
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