再び歩き始めたが、ペースをぐっと落として、呼吸を整えながらゆっくりと歩いて行った。この先はほとんど平坦な稜線歩きなのだが、小さなアップダウンでも、その登りがすごくきつく感じた。
稜線の道の展望はすばらしくて、燧ヶ岳の眺めがすばらしい。燧ヶ岳の右奥には日光白根山も見えた。
道は樹林の中に入ったりもするのだが、そこには木道がしかれていたりする。泥濘になっているのだ。アップダウンを繰り返して行くと、稜線の右に平らかな緑の山が見えた。これが目指す平ヶ岳であった。すごく遠い。
下台倉山から1時間ほど稜線を歩くと、小さな広場があって、その真ん中にポツンと三等三角点があった。台倉山という小さなプレートが樹木につけられていた。下台倉山には立派な標識があったのに、三角点の山頂に標識がないのは不思議である。
行く手には樹木のピークが見える。これに登るのかと思ったら、登山道はこの山の右を捲いて下って行くのだった。稜線はここから右折して西に向かうのだ。樹木の中をどんどん下って行くと、台倉清水と書かれた指導標が立っていた。ガイドブックでは涸れていることが多いと書いてあるのだが、ともかく行って見ることにした。登山道から急な細い道を下ると小さな沢の流れに着いた。ここが水場で、オホコ沢の源流なのである。幸いなことに水は流れていた。コップにすくって飲んだら、冷たくておいしかった。この暑い中では冷たい水はなによりの救いなのだ。長めの休憩をしてしまった。
針葉樹の深い林の中を歩いて行く。緩やかな登りがあって、それから緩やかに下る。道はけっこうぬかるんでいて、木道が敷かれているのは助かった。40分ほどで白沢清水に着いた。登山道の直ぐ脇にある湧水なのだが、水はほとんど流れていなくて、小さな埃とアメンボウが水面に浮かんでいた。これを飲む気にはならなかった。
背の高い笹藪の間を歩いて行くと、次第に傾斜が増してきて、緑の草原の山が見えてきた。草原の中にまっすぐに山頂に向かう登山道が見える。この草原のピークの右に岩場を抱えたりっぱな山が見える。これが池ノ岳のようである。
笹の草原を登って行く。かなりきつい登りで、山頂に向かって真っ直ぐに登って行くのだ。振り返ると、今たどってきた樹林の広い尾根を眺めることができる。
ようやく傾斜が緩まると、ここからは右に曲がって、池ノ岳への急登になるのだ。この登りからは左に平らかな緑の山が見えた。これが平ヶ岳であった。
痩せた尾根を登って行くと、行く手には巨岩が重なるピークが見える。これが山頂だと思ったが、そうではなくて、この先にも急な登りが続いていた。
ようやく傾斜が緩まると、灌木のあいだに木道が続いている。ハイマツの中に木道が続く。池ノ岳の山頂っていったいどこなんだと思いながら歩いて行くと、突然、灌木から抜出して目の前に湿原が広がった。池塘がいくも散らばっていて、その向うに平ヶ岳が聳えている。池には青い空と白い雲が映っていて、すばらしくきれいだ。ここが姫池で、池ノ岳というのはこの一帯をさすのだ。11時30分になっていた。
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