この先は高滝を高巻くのだが、この登りで滑落死亡事故が何度も起きているのだ。少し息を整える必要がある。
まず目の前の流れを徒渉しなければいけない。水は激しく流れていて、靴をぬらさずに渡るのはけっこう大変であった。岩が濡れているので、スリップしてしまいそうなのだ。なんとか徒渉を終えると、急登が始まる。テープに導かれて登って行ったが、途中からすごい登りになった。振り返ると滝壺には虹がかかっている。きれいだと感動しているヒマはなくて、足がかり、手がかりもないすさまじい登りになった。ぶら下がった木の枝にすがって、急斜面を越えた。途中滑り落ちそうになった。この道を下るのはほとんど不可能だと思った。でも、なんとか小さな平坦地に立ったら、右からしっかりした道が上がって来ていた。私は道を間違えて、とんでもない急な斜面を登ってしまったのだ。でも無事越えることができてよかった…。
この先はロープがちゃんとつけられていて、これにすがって急登し、断崖のような急斜面につけらトラバース道を越える。これはかなり怖かった。ロープにすがって登った所にトタンの小さな御堂があって、その中にお地蔵様が収まっていた。無事下山できますようにと手を合わせたが、ここも断崖の上で落ち着いてお願いすることはできなかった。
トラバースして行くと、行く手に再び大きな滝が現れた。これが猫滝である。滝があると、これを越えるために高巻かなければいけない。この登りが大変なのだ。
ロープにすがって急登する。ようやく下りになって、谷底に向かって下って行く。平坦地に着いたときは本当にほっとした。河原を歩いて行くと、今度は徒渉が待っていた。しばらく考えたがどうしても靴をぬらさずに渡るルートが見つからない。仕方がないので靴を脱ぐことにした。靴を脱いでしまったら渡るのは簡単である。靴下を脱いだり履いたりするのが手間なのだが、悩んでいるよりはこのほうが早かった。
沢に沿って歩いて行くと函が見えてきた。谷川の両方が岩壁になっている。これも高巻かなければいけないのだ。この高巻きはそんなに険しいことはなかったが、谷に再び下ると今度は徒渉しなければいけなかった。さっきの徒渉からそんなに歩いていない。帰りはこの間、靴下を履かずに歩こうと思った。
徒渉を終えると再びすごい滝が行く手を遮った。この高巻きも大変であった。木の根などにすがって急登を続ける。あまりにも険しくて、登りはなんとかなっても、これを下ることは不可能である。これが一般道のはずはないと思った。ともかく必死で登って、ようやくトラバース道に出た。しっかりした道が左に続いているのでこれを行ったら下りになってしまった。そこで、これが一般道だということに気がついた。さっき登り着いたところをよくみると、左に小さな岩場を越える道がある。これが正しい道なのだ。また道を間違えてとんでもない危険なコースを登ってしまったのだ。
高巻きから下って河原に降り立ち、少し行くと二俣に着く。ここが「奥の出合」である。ここでも徒渉するのだが、これは簡単に渡ることができた。ここにはテントが張ってあった。昨日帰ってこなかった車の主はここで野営したらしい。遭難してなくてよかった。
ここで少し休憩。時間は9時35分になっている。3時間歩いたことになる。でも、ここから頂上までは1時間45分かかるので、山頂到着は11時を過ぎてしまいそうだ。
奥の出合からは左の沢に沿ってトラバース道を行く。すぐに急登が始まるのではないのだ。10分ほど行くと徒渉する。これは流れが狭いので簡単に飛び越えることができた。
この先が急登の連続であった。沢を離れて急斜面をジグザグに登って行く。10分あまりの急登で尾根の上に着いたが、ここから傾斜が緩まるわけではないのだ。前にも増してすさまじい急登が続く。痩せた尾根で、道には木の根が網のように張り出している。これがちょうど階段のようになって、足場は確保できる。
これでもかこれでもかという険しい登りが続く。でも、道にはピンクのシャクナゲやアケボノツツジが咲いていて、このきれいな花にほっとさせられるのだ。
痩せた尾根には二回ほど巨岩が立ちふさがった。最初の巨岩を回り込んだところでは尾根が合流した。
標高1100mを越えると傾斜が緩まった。…といっても比較の問題で、今までがすごすぎたから、普通の急な登りになっただけなのに緩やかになったような気がするのだ。
途中で若い女の人とすれ違った。下ってくる人にあったのは初めてなので、赤い車の人かと訊いたらそうだという。遭難してなかったのだ。ちょっと安心した。この人が奥の出合でテントを張っていたのだという。
急な尾根を登って行くと岩塔のように聳える岩を右から回り込んで越える。これがガイドブックの「シャクナゲ坂の大岩」かもしれない。
この先も急な登りが続くのだが、アケボノツツジがたくさん見られるようになった。花を眺めながら楽しい気分になって登って行くと、杉の巨木に蛇のように巻き付く木があった。こんな変わった木も私はかなり好きなのだ。
再び、木の根が網のように張り出す痩せ尾根の急登になった。でもシャクナゲやアケボノツツジの花もたくさん咲いている。岩混じりの痩せた尾根が、いつのまにか緩やかな草つきの尾根になって、樹林もまばらになって明るくなった。この明るい尾根を10分ほど登ると山頂であった。
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