霧の中、しばらく平坦な道を行き、それから下りになった。
砂礫の広い尾根を緩やかに下って行くと、ハイマツの中の道になって、行く手の霧の中に大きな山影が浮かび上がる。緩やかな登りで二つのピークを越えて、振り返るといつの間にか下の雲は晴れていて、たどってきた草紅葉の広い稜線を眺めることができた。
北ノ俣岳から30分ほどで赤木岳の山頂に着いた。山頂といった感じではなくて、登山道の途中に指導標があるだけなのだ。右手にここより高いところがあるのだが、ハイマツに埋まっていてそこへ行くことはできない。でも、とりあえずは赤木岳クリアである。
山頂から緩やかに下って鞍部に着くと、それからは大きな岩が累々とする中の登りになった。この岩礫のピークを越える頃に空が晴れてきて、青空が時々のぞくようになった。でも、行く手の黒部五郎岳方向は厚い雲の中である。
岩礫のピークから下って行くと、その鞍部には池塘がいくつか見えた。ここが中俣乗越であった。
鞍部からも広い尾根の登りである。行く手の雲が晴れてきて、鋭い三角峰が姿を現した。ハイマツに覆われた峰で、地図で確認すると2578mのピークのようである。
このピークに向かって登って行くのだが、道はまっすぐに山頂を目指すのではなくて、左側に捲いて行く。ハイマツの中、かなり平坦な道を歩いて、それから急な登りになった。ハイマツの中を急登して振り返ると、北ノ俣岳方向にかかっていた雲が晴れてきて、私のたどってきた長い稜線を眺めることができた。
ようやく傾斜が緩まってピークの上に着いたが、それは下から見上げた三角峰の南側の肩に着いたのであった。その山頂に向かう踏み跡があったが、そこまで行くのはやめにした。
緩やかに下って行く。下は晴れていて、鞍部をきれいに眺めることができる。の先には厚い雲に覆われた黒部五郎岳への広い稜線が続いている。下の方は晴れてきているのだが、黒部五郎岳だけが雲の中なのだ。
緩やかな鞍部を歩いていたら、突然ヘリコプターがやってきて、すぐ後ろに降りた。救助されるような登山者はいなかったようなのだが、何だろうと思ってしまう。ヘリから降りた人が谷川のほうへ下って行った。何かを探しているようだった。
ハイマツにきれいな紅葉が散らばり、行く手には巨岩が重なるピークが見えてきた。名のあるピークなのかと思ったが、この岩峰の横を通過しただけであった。
草紅葉の広い尾根を緩やかに登って行くと、道には岩礫がおおうようになって、傾斜もきつくなった。岩の重なる道を急登して、しだいに霧の中に入って行く。尾根の少し左を斜めに登って、ようやく稜線に着いた。ここが黒部五郎岳の肩であった。
道はここで二つに分かれる。山頂を経由して尾根から黒部五郎小屋に至る道と、カールに下ってカールの中を歩いて小屋に至る道である。山頂は雲に覆われているので尾根を歩いても展望はえられそうもないので、カールの道を行くことにした。そう決めたら重いザックを背負って山頂に登る必要はない。ザックはここに置いて空身で山頂を往復する。
雲の中に、黒部五郎の山頂と思われる影がうっすらと浮かび上がる。これに向かって登って行く。岩だらけの道をジグザグに急登して、傾斜が緩まると霧の向こうに人影は見えた。これが山頂であった。13時少し前であった。
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