キレット底からは、最初からすごい岩場の登りである。この途中で雷のような音を聞いた。いったい何かと思ったら、岩が崩落する音なのだ。これがかなり長い間、鳴り響いていた。登山道は大丈夫なのかと心配になってしまう。(このあと縦走して行ったが、登山道が崩れていることはなかった)
急な岩場は最初だけで、これをを越えたら稜線の道になった。あとはあまり苦労なくケルンが積まれた山頂に着いた。ここがⅠ峰である。
不帰の嶮というのは、実はここからⅡ峰にかけてが核心部なのだ。
すさまじい下りになる。そのコルの向こうには道なんてありそうもない岩壁が聳えている。それがⅡ峰への尾根である。ともかく、ザレた急な道を下る。
鞍部に降り着いて、そこから見上げるⅡ峰への登りがすさまじい。
岩場の急登が始まる。最初から鎖場である。鎖につかまって岩峰を越える。ここからは無我夢中である。ひたすら目の前の岩場を登ってゆく。
途中、降りてくる登山者に会った。その人が言うには、捻挫をした人がⅡ峰北峰の手前にいて、レスキュー隊が出動して一緒にヘリを待っている状態なのだという。もしかしたら、ヘリでの救出の間、足止めをくうかもしれないということであった。
急なザレた道を登って行くと、そこにレスキュー隊員と足に包帯をまいたおじいさんがいた。その横を通って、少し登ると北峰山頂であった。Ⅱ峰には北峰と南峰があって、この間は痩せた岩尾根である。
この岩尾根を越えて南峰に着く頃にヘリが飛んできた。私は南峰の山頂から救出作業を見ていたのだが、あっというまに雲が出てきて、ヘリが見えなくなった。しばらくしてヘリが飛び去っていったが、あんな霧の中でも救出作業ができたのだろうかと、少し心配した。
Ⅱ峰山頂は今までに比べたら平坦な広いところで、ここからⅢ峰には普通の稜線の道である。行く手の大きな山に向かって稜線を行き、右の尾根を越える。そこからは砂礫の山腹を斜めに登ってゆく。Ⅲ峰ってどこだろうと思いながら急登を続けると、山頂に着いた。ここがⅢ峰かと標識をみたら、唐松岳であった。10時であった。
山頂には誰もいなかった。休憩していると、雲が流れていって、不帰の嶮が展望できるようになった。すごい。この岩稜を登ってきたのだと思うと、自分を褒めてやりたくなる。
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