出発は9時50分であった。林道の続きの道である。私の四駆だったらなんとか走れそうな道であった。歩き始めてすぐに忘れ物に気がついた。財布や携帯を入れたウエストポーチと腕時計を忘れたのだ。昨日一日のんびりしたので、緊張感がなくなっているのかもしれない。でも、これらはなくても登山に支障はないのでそのまま登ることにした。
役場でもらった地図によると波田町避難小屋まで林道が続くようである。
林道なので傾斜はきつくない。ほとんど平坦な林道を15分ほど行くと、左にターンして緩やかな登りになる。三度ほどターンをして、避難小屋に着いたのは10時25分であった。1時間かかる予定が35分で来てしまった。
この小屋の前からは槍・穂高が展望できた。空は白い雲におおわれているのだが、この雲は高いところにかかっているようで、展望には影響ないのだ。何度見ても、槍・穂高の眺めはすばらしい。
避難小屋は最近できたようで、中はすごくきれいであった。
小屋の横を通って登山道に入る。ここが本当の登山口である。展望の開けた笹原の中に続く道は傾斜が緩やかで歩きやすい。でも、5分ほどで樹林の中に入ってしまった。鬱蒼とした針葉樹林の森が続く。トドマツやエゾマツ(ここは北海道ではないのだからエゾマツではないのかもしれない)の林がすごくきれいだった。私は森が好きなのだ。
避難小屋から30分ほど登ったとろに、朝日村からの登山道との合流点があった。本当はこの道を登ってくるはずだったのだ。どのガイドブックを見ても、鉢盛山の登山道は朝日村からのものしか紹介していないのだが、波田町からの登山道はしっかりしていて、まったく迷う心配はない、朝日村からの林道の復旧のメドがたたないのだから、これからはこの道が登山道の主流になるかもしれない。
この先、道がぬかるむようになった。所々、木道が敷かれていたりするが全部ではなくて、時々ぬかるみを迂回しなければいけなくて、けっこう煩わしい道である。
分岐から10分ほど歩いたところに鉢盛坂新道という指導標があった。「山頂まで1.3km、50分、最後の長坂ガンバッテ」と書かれている。まだ50分もかかるのかと思ってしまった。空はすっかり白い雲におおわれてしまって、日も差さなくなった。山頂での展望が心配である。
このあたりで団体とすれ違った。たぶん登山口のマイクロバスで来た団体だろうと思う。その団体が山頂からはすばらしい眺めだったと教えてくれた。楽しみだ。足が速くなる。
みごとなトドマツの林の中をジグザグに急登する。今日の登山で一番登山らしいところであった。ターンを繰り返して急な斜面を登りきると、ようやく広い尾根に着く。
針葉樹の林の中を緩やかに登って行くと、突然視界が開けて平坦地に着いた。そこには「権現の庭」という標識があった。
再び樹林の中に入るとすぐに小屋があった。これは朝日村の避難小屋なのだ。小屋の戸や窓は完全に封鎖されていて、この小屋を使うことはできないようである。小屋の前の指導標には山頂まで5分と書かれていた。もうすぐである。
笹原の明るい急斜面を登って行く。振り返るとすごく立派な山並みが見えた。八ヶ岳であった。蓼科山から編笠山に続く稜線が一望できるのだ。うれしくなってしまう。
いくつもの石の祠が置かれた山頂に着いたのは11時40分であった。その祠に囲まれて一等三角点があった。この山は一等三角点の山だったのだ。
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