さて、今日はもう一つ、茂来山に登ることにしている。今回の登山旅行では、長野県の山のすべてを登り終える計画であったのだが、これがその最後の山である。
佐久町から三国峠に向かって車を走らせ、途中から右の細い道に入る。行く手には三角形のりっぱな山が聳えているのだが、山頂は雲に隠れている。今日はすっきりとは晴れてくれないようである。登山口に着いたのは8時20分であった。
登山口の指導標には山頂まで2.5kmと書いてあった。これならラクな登山である。
平坦な広い道が続いていて、まっすぐに上に伸びる林の中を行く。杉の植林かと思ったらカラ松であった。道の右には小沢が流れていて、そのせせらぎを聞きながら歩いて行くのだ。道には石が多くて、水が流れるぬかるみを通ったりするが、すぐにしっかりとした道になった。
登山口から10分ほどで沢の二股に着いた。登山道は左の沢に沿って続いている。
鬱蒼とした林の中を歩いて行く。次第に傾斜がきつくなってくると、いつのまにか沢の流れはなくなっていて、深くきれこんだV字の山間を登って行くのだった。
行く手には稜線が壁のように立ちふさがって、それにむかってまっすぐに登ってゆく。傾斜はどんどんきつくなって、このまま直登するのかと悲鳴をあげたくなったころで、ターンをして斜めに登るようになった。振幅の大きなジグザグで登って行く。斜面の林がすごくきれいであった。
行く手が明るくなって、ようやく尾根の上に着くと、そこには大きな栗の木がはえていた。私はこうした巨木が好きなのだ。ここに立つ指導標には山頂まで1kmとかかれていた。すぐではないかと思った。
ここからは傾斜の緩やかな尾根を行くのかと思ったら、すぐに、めちゃくちゃに急な道になった。尾根は痩せて、岩がゴツゴツ突き出ている。行く手のピークには巨岩が見える。
このすさまじく急な痩せ尾根を登って行き、ピークに着くと巨岩を右から回り込んでその上に出る。その先は緩やかな尾根になってほっとしたが、すぐにまた岩がゴツゴツと突き出たピークが聳えていた。
きつい登りが続くのだが、すばらしくきれいな紅葉の林になった。どっちを見ても鮮やかな紅葉で、登山はそっちのけで、写真ばかり撮ってしまった。
山の斜面を斜めに登って行くと、ブナの巨木が多いことに気がついた。ブナの林を行くのも、すごく気持ちがいい。
尾根の上に出て、平坦な道を少し行くと分岐があった。霧久保沢に下る道である。ガイドブックでは、これを下山路とするコースを紹介しているのだが、車があるので来た道を引き返すしかない。でも、このコースの途中には「こぶ太郎」という樹齢250年のトチノキの巨木があって、巨木の好きな私としてはこれだけが心残りなのだ。
すばらしくきれいな紅葉の中を登って行く。道は広くなって、傾斜はきついのだが気持ちのいい登りである。
樹林から抜け出すと岩がゴツゴツした登りがあって、その先が山頂であった。
真っ青な空が広がっている。山頂には新しい石の祠があって、その横に三角点がたっていた。
山頂から振り返ると、大きな山塊が聳えていた。頂稜が雲に隠れているのだが、八ヶ岳であった。大きな裾野にはスキー場などが見える。八ヶ岳の左には南アルプスも見えた。
山頂から北は雲で真っ白である。浅間山を見たかった。
暖かな日差しの中、ポッドの熱いお湯でコーヒーをつくってゆったりとした気分で八ヶ岳を眺めていた。
ふと気がつくと山頂の碑には「浩宮様登山記念」と刻まれたものがあった。この山にも登っていたのかと驚いた。
山頂で待っていたら雲が晴れてくれないかと期待したのだが、結局あきらめて下山することにした。
帰りは、紅葉の写真を撮りながら、のんびりと下って、登山口に戻ったのは11時25分であった。
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