樹林の中に入って、しばらくは緩やかな下りであったが、突然、階段の急降下になった。この階段の下りは長かった。しかも、道は濡れていて、すごく滑りやすいので、一歩一歩慎重に下らなければいけなかった。
ようやく雲の下に出て、空が明るくなった。そのすぐ先に露岩の展望台のようなところがあって、そこから行く手に聳える小金ヶ岳が展望できた。山頂付近は雲に隠れているのだが、山腹はすさまじい岩壁になっていた。もしかしたら、これを登るのか…、と心配になってしまった。振り返ると、三嶽は雲が流れてシルエットを浮かばせている。下には峠に続く車道も見えた。
ここから少し下ったら草の広場に着いて、東屋やベンチも置かれている。ここから一段下ると、今朝車を停めていた峠の駐車場であった。ここの峠は「大タワ」というのだ。駐車場から車道を横切った先にも広場があって、新しい東屋がたっている。「多紀連山県立自然公園」の石碑もたっていた。
東屋の壁には、この山の歴史や登山道のことを書いたパネルが掲示されていて、勉強になった。それによると、ここから小金ヶ岳の間には、鋸岩・廻り岩・髭すり岩・蟻の戸渡りなんどの岩の行場があったらしい。…ということは、これから登る道はこの行場を行くということではないか。顔がひきつってしまう。
覚悟を決めて歩き出す。登り口には石の祠があって、中に役行者が祀ってあった。
鬱蒼とした杉林の中を緩やかに登って行く。すぐに急な岩場の登りが始まると思っていたのだが…。
杉林の山間を10分余り登ると、尾根が見えてきた。この尾根を左に行く。階段の登りが始まったが、すぐに平坦な自然林の道になった。露岩が現れたりするがたいしたことはなくて、緩やかなアップダウンを繰り返す。
でも、10分ほど行くと突然目の前に岩峰が立ちふさがった。これを越えるのかと思ったら、左に下って行くのだった。すさまじい岩場で、鎖にすがっての急下降であった。
昨日からの雨で道は濡れていてすごく滑りやすいのだ。岩場を慎重に下る。ようやく平坦な尾根に着いて、少し行くと露岩の上に出た。そこからは小金ヶ岳山頂に続くすさまじい岩峰群を見ることができた。雲が流されてゆき、岩峰群をいっそう険しく見せている。
覚悟を新たにして、岩場を行く。灌木の中の岩場なので、高度感はないのだが、それでも恐ろしい岩場の連続である。鎖にすがって岩溝を登って一息つくと、すぐに同じような岩溝に長い鎖が下がっている。これを必死で越えると、今度は痩せた岩尾根の下りであった。これが蟻の戸渡りかと思った。
巨岩の前に出たら、下って行く道と巨岩に登る鎖があった。下りは捲き道だと思うので、ここは鎖にすがって巨岩を登った。意外と簡単に上に出て振り返ると、登って来た岩峰の道が一望できた。足が震えるような眺めである。
再び樹林の中に入って、灌木の枝につかまって急登すると、5分ほどで山頂に着くことができた。
山頂には三嶽山頂と同じような方位盤があった。でも、こっちの方位盤にはここから見える山々の名前がしっかり書かれていた。三角点らしきものもあったが、壊れていて本当に三角点かどうかはわからなかった。
ここで、息を整えるために長目の休憩。休んでいると、雲がとぎれて、遠くの山々がかすかに見えたりする。でも、すぐに雲に閉ざされてしまうのだ。それにしても、あのすさまじい岩場を越えてきたのだから、大満足である。
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