前剣からは急な岩場の下りである。この岩稜にはいくつも岩塔がそそり立っていて、それをトラバースして下って行くのだ。第5の鎖場(前剣の門と言われるらしい)はそんな絶壁につけられたトラバースルートで、これがカニの横ばいではないかと思ってしまうようなルートであった。
この鎖場を過ぎると下に砂礫の鞍部が見えてきた。平蔵のコルだと思うのだが、そこへはすさまじい鎖場の下りが待っていた。第6の鎖場である。岩壁を下ってようやく砂礫の尾根に降り立つ。ほっとしてため息が出た。この鎖場は登りと下りの二つのルートがあって、少し行くと下りコースの鎖場があった。
鞍部からは尾根の右を行き、雪渓を横切る。雪渓からは草つきの急斜面を登って尾根の上に出るのだが、この草つきの登りは踏み跡がはっきりしなくて、足場が不安定である。よくみると本当の登山道は雪渓にかくれているために、この踏み跡があるようだった。
尾根に出ると砂礫の普通の道になったが、すぐに尾根の右下を行くようになって、雪渓の上端をトラバースして岩峰の間のコルに着く。まず第7の鎖場があってこれにすがって絶壁を慎重に登って行く。次々と鎖場が現れて息つぐ暇がない。
巨大なスラブを登って岩棚につき、見上げると巨大な岩壁が聳えていて、そこに第12の鎖場(これは下りのコース)があった。登山者が恐る恐る下ってくるのが見えた。上りのコースはこの巨大なスラブをトラバースしてゆくのだ。絶壁につけられたトラバース道を鎖にすがってたどると、左に垂直に登って行くルートがあった。これがカニのタテバイであった。
すさまじい鎖の登りである。ほとんど垂直ではないかという岩場を登って行くのだ。上部は岩の狭間になって、足がかりを慎重に選んで登って行く。ようやく岩場を越して、尾根の上に出ると岩礫の緩やかな道になた。尾根の少し右側を斜めに登って行く。振り返ると立山の眺めがすばらしい。立山の右奥に見える白っぽい山は薬師岳であった。うれしくなってしまう。
岩だらけの斜面を登って山頂直下の尾根に出たら、足止めをくった。ヘリが物資を運ぶためにやってくるのだという。待っていたら、たしかにへりが飛んできた。でも、頭上を越えて飛んで行ってしまった。先の小屋に寄るらしくて通行止めが解除された。すぐに山頂に着いた。登山者がいっぱいである。山頂には立派な祠があって、その前で写真を撮ってもらった。
人がたくさんの山頂でなんとか腰を下ろすところを探して、落ち着いたらへりがやってきた。
山頂からは本当に360度の展望で、絶景絶景としかいいようがない。私の持ってきたガイドブックには剣山頂からの展望図が載っているので、すべての山を特定できるのだ。私が休憩したすぐそばに三角点があった。新田次郎の「点の記」という小説を思い出してしまったが、この三角点は三等三角点であった。
時間はまだ10時前である。ゆっくりと休憩することにした。ともかくまわりの山々を眺めていると飽きることがない。北に山塊が見えるのだが、これは毛勝山や猫又山であった。すごいと思ってしまう。南には立山と薬師岳、その間に黒部五郎岳とる笠ヶ岳が見える。私がこれからたどろうとしている長い稜線である。
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