ダムの管理寮の前を通って、どんどん歩いて行くと草茫々の道になって、最後は道がなくなってしまった。昨日、阿曾原小屋の主人からはダム施設の中を歩くと聞いていたのだが、細かいことがよく理解できていなかった。ともかく引き返して、草茫々の入り口の広場でザックをおろして地図を確認した。そこでふと顔を上げると、鉄の柵の大きな扉に登山道の案内が書かれていた。この鉄の扉を開けて、トンネルの中を行くのが登山道なのだった。道がわかったので安心して、少し休憩することにした。休んでいたら、昨日露天風呂で一緒になったグループがやってきた。彼らはこの仙人ダムを見学して阿曾原小屋に引き返すのだそうだ。
ダム施設の中のトンネルを行く。けっこう曲がりくねっていて迷いそうになるのだが、親切な指導標があるので迷路のような回廊を歩いて行くことができる。
最後は階段を登ってダムの堰堤の上に出た。ダムの上からは黒部川の眺めがきれいだった。ここからさらに階段を上って建物の屋上に出る。その屋上にはロープを張って登山道を示している。屋上からハシゴのような階段を下って黒部川の左岸につけられた細い道に下る。ここからは左に黒部川をみながら細い道を行く。黒部の流れはコバルトブルーですばらしくきれいであった。
水平道の終点には、右にハシゴがかけられていた。このハシゴを登るのだが、これがまたほとんど垂直かと思うような急なハシゴで、しかも二連になった長い登りであった。途中から下を見るとすごい高度感であった。
ハシゴが終わると谷川の右につけられた道を行く。10分ほど行くと木の橋が架けられていて、これで右岸に渡る。
樹林の中に入って、左に黒部川を見ながら平坦な道を20分ほど行くと、右に急な道があった。そこにあった指導標にはわざわざ「これより急登」と書いてあった。その急登に備えて、ここで少し休憩した。この急な登山道は雲切新道というのだ。8時15分になっていた。
まず、ハシゴを登る。そして急な登りは延々と続くのだ。階段の道になったりハシゴを登ったり、ひたすら登って行く。15分ほどで滝のすぐそばを登るようになった。ダムから見上げていた滝である。
1時間ほど急登が続く。荷物が重いし、もう青色吐息で、この急登では35分登って10分休むというペースであった。ようやく樹林から抜け出すと、そこからはやせた尾根の登りである。尾根になったら傾斜が緩まるのかと思っていたのだが、みごとに裏切られた。ロープが下がる急な登りが何度もあった。夏の強い日差しで汗だくになってしまう。
一息ついて振り返ると、対岸の上にすごく高い稜線が見える。これは五龍岳から鹿島槍ヶ岳に続く後立山の稜線なのだ。すばらしい眺めである。
ようやく平坦になって、少し行くと指導標のある広場があった。そこには「尾根頂上 標高1629m」と書かれていた。やっと急登が終わったのだ。11時10分であった。
山頂からは緩やかに下って行く。右は仙人谷で、流れがはるか下に見える。山の急斜面をトラバースして行くと、谷を挟んだ向こうに仙人温泉小屋が見えた。温泉小屋なのだからここには温泉があるのだろう。疲れ果て、汗だくになっているので温泉に入って行きたいという誘惑にかられてしまう。
歩いている登山道を目で追うと、道は小屋よりも遙か先で谷に下るのでこの小屋を通ることなさそうだ。(でも道はわざわざ引き返すように谷の斜面を登って小屋を経由するのだ)
谷底に向かってどんどん下って行くと湧き水があったので、そこで休憩することにした。冷たいおいしい水だった。
これでようやく一息ついて、さらにトラバース道を谷に向かって下って行く。
行く手の山の斜面から白煙が激しく上がっているのが見えてきた。これが仙人温泉の源泉であった。緑の斜面にガレ場があって、その岩礫の間から白煙がもうもうと上がっている。すごい眺めである。ここにたつ指導標には仙人温泉湯元、標高1550mと書かれていた。ずいぶん下ったようだったが、尾根山頂からはまだ100mも下っていないのだ。
ようやく仙人谷に下ると、そこにはちゃんとした橋がかかっていた。上流は二股になっている。私はどっちの沢を登ることになるんだろうと思ってしまう。
橋を渡って、谷の急斜面を登って行く。登って行く方向とは逆の方へ道は続いている。おかしいなと思いながら登って行くと、小屋の前についてしまった。登山道はここでUターンしてようやく登りになるのだ。わざわざこの小屋を経由するように道はつけられているのだ。なんかすごく遠回りしたような気がしてしまった。
小屋の入り口には「06年までの登山道は廃道です」という表示があった。
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