昔、大阪に住んでいたときに六甲山には何度も登った。ところが、この高取山、須磨山には登ったことがなかったのだ。
須磨アルプス馬の背



2002
622

新田次郎の山岳小説に「孤高の人」がある。
私の最も好きな小説の一つで、実在の登山家、加藤文太郎さんを主人公にした物語である。
この冒頭に高取山の山頂で老人と若者が会話をかわすシーンがあって、ここで老人は不世出の登山家、単独行の加藤文太郎のことを語るのである。加藤文太郎さんは神戸に住んでいて、山の基本はこの六甲山を歩くことによって培ったのだ。
この小説に六甲山全山縦走路のことが書かれている。これはJRの塩屋駅から宝塚に到る全長50 kmの道で、これを踏破するには速くても12時間かかるのだ。ところが加藤文太郎さんは神戸の寮を歩いて出発して全山縦走を行い、さらに宝塚から歩いて神戸まで帰ったという。
「孤高の人」を初めて読んだのは私が大阪に住んでいたときのことで、山を少しだけかじり始めた頃だった。
私はその時、甲子園にある独身寮に住んでいたのだが、この小説に刺激されてか六甲山によく登った。菊水山から宝塚まで縦走したこともあるし、寮から歩いて出て最高峰に登り、歩いて帰ってきたこともある。ただ、塩屋〜菊水山の間は歩いたことがなく、全山縦走はまだ果たしていないのだ。
今、30年ぶりに関西に転勤してきて、昔果たせなかった全山縦走をしてみたいと思う。ところが、今住んでいる京都府向日市からは始発の電車に乗っても塩屋には7時前にしか着かない。全山縦走は12時間以上かかるのだから、前泊でもしないかぎり無理だ。
ともかく、まだ登ったことのない塩谷〜菊水山を歩いてみることにした。

早朝の電車はすべて各駅停車で、ものすごく時間がかかる。
4時46分に阪急西向日を出て、塩谷に着いたのは646分であった。
駅を下りるとそこには駅前広場がなくて、すぐに店が並んでいる路地のような道がある。
最初から道がわからなかった。
登山地図とにらめっこで歩き始めた。
それでも道を間違えた。
ようやく登山道に入って、しばらく行くと地図に記載されている山王神社があった。これで道を間違っていないことが確認できた。
この神社の前に案内板が立っていて、この裏に源平合戦の戦死者の供養塔があるのだそうだ。
行ってみることにする。
古い風化した五輪の塔がいくつも並んでいた。そんな大きなものではない。
ここから、激戦の瀬戸の海を見下ろし続けてきたのか…と、少し感傷にふけってしまった。

どんどん登って行くと、とつぜん大きなコンクリートの建造物の横に出る。
これは「ドレミファ噴水パレス」で、中に入ってみるとプールがあって、きれいに花が咲いていた。
すばらしかったのはここから見る景色で、明石海峡大橋を間近に見ることができるのだ。
明石大橋からこんなに近いとは思いもよらぬことであった。
ここからは遊園地の中の歩道を歩いて行く。
須磨浦山上遊園を通り抜け、再び登山道を行く。
20分足らずで鉄拐山の山頂に着いた。ここからも明石海峡の展望がすばらしい。
急な道を下ると展望の開けたところに出て、行く手に二階建てのレストランがある。これが「おらが茶屋」であった。名前からは山小屋のようなものを想像していたのだが…。
ここから登山道は市街地に入ってしまう。まず長い長いコンクリート造りの階段を下らなけらばいけなかった。行く手にはいくつもの団地が立ち並んでいて、とても登山に来ているとは思えない風景である。
この住宅街を抜け、車がガンガン走る道を歩道橋で渡ると、その突き当たりから再び登山道が始まる。栂尾山への登りなのだが、これも階段の登りである。
階段の登りはひどく体力を消耗させられる。けっこうつらい。
栂尾山の山頂には展望台があって、ここから明石海峡大橋が見える。そのすばらしい景色を見ながらおにぎりを食べて休憩した。
稜線を歩き、横尾山に着く。
このピークを越えると、いよいよ須磨アルプスの核心部に入る。
アルプスなんて大袈裟な名前だと思ったが、このコースはとってもよかった。
まず鎖場があった。
須磨アルプスは白い岩場が続く。
馬の背というだけあって、やせた岩稜の尾根を行く。なるほど、アルプスと名づけるだけあると感心してしまうのだが、目を少し転じるとすぐ傍に住宅街が広がっているのを見ることができる。このミスマッチングがすごい。
この白い岩稜を過ぎると東山の山頂で、ここから妙法寺に下る。
下って行くと、またまた住宅街の真っ只中に入った。
町の中に入ると道がわからなくなって、つい、ウロウロしてしまう。頼りになるのは電信柱に貼られている関西電力の六甲山縦走路の矢印。
これを探しながら行くのだが、所々でこれを見失う。
地図と磁石をにらみながら歩いて行く。
次に目指しているのが高取山である。
冒頭に述べた「孤高の人」に描かれた山である。
高取山の山頂は神社なのだ。
石段を登って山頂まで行った。広場があって、そのまわりにたくさんの石碑が立ち並んでいる。
山頂から神社の本殿に下る。この高取神社はけっこう大きくて立派な神社だった。ここからの神戸市街の展望はすばらしかった。
高取山から下って行くと再び市街地にでる。
丸山町なのだが、この市街地の中の縦走路も本当にわかりにくかった。かなり迷って無駄に時間を使ってしまった。
なんとか地図で自分のいる場所を確認して、そこからは登山地図とにらめっこで歩歩いて行く。「ひよどり越え」の駅の前でも少し迷って、ここから再び山道に入る。
この頃からだいぶバテてきた。
道に迷ったりするとつい焦ってしまう。そうすると、歩くペースが乱れてしまう。
ペースが守れないというのは歩くことでは致命的で、バテるのは当たり前である。
菊水山駅の前を通って山道に入る。
登山道は神戸電鉄のトンネルの上を通っているのだ。
このコースは2度ほど歩いているのだが、まったく思い出すことができない。
ただひたすら辛かった。バテている。
久しぶりに息を切らして登ってしまった。
菊水駅から40分の行程なのに1時間もかかってしまって、山頂に着いたときはほっとした。
ここで大休止。
お湯を沸かしてコーヒーを入れる。やっと落ち着いた。
天気はよくて、ここからも神戸市街を見下ろすことができる。六甲山の魅力はこの展望の素晴らしさなのかもしれない。
菊水山を出発したのは2時である。
だいぶ元気も回復して、稜線の道を下って行く。突然吊り橋があって、これが弁天橋、有馬街道をまたいでいるのだ。
再び登りになる。
バテがまだ残っていて、登りになるとけっこうきつい。
鍋蓋山は高い木々に囲まれた山頂で、神戸方面が開けている。
ここからは大龍寺に向かって下る。
大龍寺の境内に入って行くと、御手洗場があって水が流れている。がぶがぶ飲んでしまった。今日は水の飲みすぎ。2リットル持って来たポリタンが空になっているのだ。
バテるといろんな面で、正常でなくなってしまう。
大龍寺からは車道を歩いて市ヶ原に向かう。
市ヶ原では河原に出て、そこで川を渡る。河原では川遊びをしている家族連れが多かった。
この河原から道路に登ると、そこに桜茶屋があった。
もう時間は4時になっていて、ここから下山することにした。
広いしっかりした道を下って行く。
昔、就職して大阪にやってきて、初めてハイキングに来たのがこの市ヶ原だった。
そのときの印象はけっこう山道だったような気がするのだが、今は完備された遊歩道に変わってしまっている。
なんかさびしいような…。
どんどん下って行くと布引ダムがあって、さらに行くと右に曲がって、布引の滝の前に出る。立派な滝である。
ここからまた少し行くと、布引の滝雄滝があった。
これは真っ直ぐに落ちる滝。展望台からは少し離れた向こうに滝が見える。
滝の見物も終わって下って行くと、神戸市街がどんどん近づいてくる。
最近は高層ビルが建っていて、そのビルが山道を歩いているのに、遥か高いところに聳えている。
六甲山を登って見て思うには、神戸の街が山からすごく近いということである。
だからこそ、六甲山の毎日登山ができるのだろうけど。
新幹線の新神戸駅を潜ると、そこはもう神戸の街の中であった。


NEXT 六甲最高峰





塩屋駅前


山王神社


源平合戦供養塔


須磨山上遊園


旗振山山頂


鉄拐山山頂


高倉山


高倉山から団地に下る


梶尾山山頂


須磨アルプスの岩場


須磨アルプスの岩場


妙法寺


高取山山頂


高取山から神戸市街を見下ろす


市街地に入る


ひよどり越え駅


菊水山山頂



菊水山山頂

鍋蓋山山頂

鍋蓋山山頂から

再度山大竜寺

布引の滝

布引の滝雄滝

ロープウェイが見えた

新神戸駅


須磨山から
須磨アルプス
高取山から神戸





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