BACK 大船山
2003年9月14日
日が暮れる頃、長者原に帰ってきた。
もう温泉に入っている時間もない。ともかく明日は傾山に登るのだ。
カーナビをセットして九折の登山口に向かう。
一旦、道を阿蘇方面に引き返して竹田市に行って、そこから南下するのだ。
昨日は夕食の買い出しができなかったので、今日はこの竹田市でスーパーを見つけて、なんとしても夕食は焼き肉にするぞ、と決意している。
登山口までの走行距離は70kmほど。
竹田市に入った頃は真っ暗になっていた。
以前、祖母山に登りに来たときも、この竹田市の街中で迷ってしまったのだが、今回も変なところに入り込んでしまった。この町は本当によくわからない。
町の中に入って、ともかくスーパーを探す。これがなかなか見つからない。ようやくスーパーを見つけて店内に入ったら、閉店の音楽が流れていた。
大急ぎで買い物をしたが、困ったことにここでは酒を売っていなかった。
焼き肉にビールがなかったらどうしようもないではないか。
竹田の町の中をしばらく走ってみたが、どうにも酒屋が見つからない。とりあえずそのまま登山口をめざすことにした。
小さな集落でも酒屋だけはあることを知っているので、楽観していたのだが、このあたりの店は閉店時間が早くて、せっかく見つけてもすでに明かりが消えている。今夜は肉があるのに酒なしかと諦めていたら、ようやく酒を売っている店を見つけた。
これでやっと安心である。登山口に着いたのは8時半頃。
駐車場があって、真っ暗である。10mほど先に明かりが1個点っているのだが。
何台か車が停まっている。テントも張られていた。
ジャマにならないように、出来るだけ音をたてずにテーブルと椅子を出す。
これも睡眠の迷惑にならないように、明かりはロウソクにした。
ともかく落ち着いて、まず缶ビールを開ける。
最初の一杯はすこぶるうまかった。
今日は肉をたくさん買いすぎた。ともかく食べる。
空を仰ぐと星空が広がっていて、そこにいくつかの雲がかかっている。
すぐ傍を川が流れていて、その音がうるさいくらいである。
山に来て、こんな夜を過ごすのは好きである。
9時半くらいに食事を切り上げて、車の中で寝た。
明日は岩峰の稜線をたどらなければいけないのだ。
9月15日
4時半に目を覚ました。
今日はできるだけ早く出発したい。登山を終えたら京都まで帰らなければいけないのだ。900kmの道を走るのだが、できたら真夜中の12時には家に着きたいと思っているのだ。
朝食はカップ麺で簡単にすませて、6時少し過ぎに出発した。
この駐車場にはトイレと休憩施設がある。昨夜見た明かりはこれであった。
道を挟んだ向かいには建物があって、これが旧鉱山跡の施設である。急な坂道を登って行くと、5分ほどで道は突き当たってしまう。右に青く塗られた鉄の階段があって、これを登って行く。登りついたところは、もと線路が敷かれていたような道で、これを5分ほど行くと指導標が立っていた。まっすぐ行くと三つ尾峠に至る道で、これは私が帰り道につかうつもりである。右の登山道に入る。
すぐに標識がぶら下がっていた。右に登って行く踏み跡があるのだが、この標識には「左・カンカケ谷を経由傾山」とある。カンカケ谷とはいったいどこだ、と悩んでしまった。カンカケ谷をガイドブックの地図で探してみるとコースから外れたところに記載されている。この道は違うのではないかとも思ったのだが、指導標のいうカンカケコースを行くことにした。
登山道は谷の流れからかなり高いところを通っていて、深い谷を左に見ながら歩いて行く。
渓谷に沿って歩いていくのだが、いくつも沢が流れ込んでくる。これを渡るのがけっこう大変である。
ちょっとした尾根を越して下ると、合流してくる大きな沢があった。普通に徒渉したらいいのかと思ったらそうではなかった。そこには案内があって、沢の中を50m進んで渡ると書かれてある。これが最初の指導標で悩んだカンカケ谷であった。
ここから沢の中を登って行く。道がはっきりしなくて、大変な道である。
徒渉点に着いた。対岸では一人の登山者が地図を見ながら、道を探しているようであった。
徒渉点もわかりにくいのだ。
流れは簡単に渡ることができた。
登山者と情報交換。
さて、ここからはすごい登りが待っていた。
すさまじく急な道で、樹林の中のため高度感はないのだが、それでも鎖場があったり、梯子があったりで大変な道である。
1ヶ所、道を間違えてとんでもない岩場に出てしまった。
踏み跡とか、赤テープの表示がなくなったのでおかしいと思ったら、ひとつ隣の岩を登っていたのだ。ここから登山道に戻るためには、急な崖をへつって、とんでもない恐い思いをしなければいけなかった。
この登りは、ともかくすごかった。
ようやく林道に着く。ここまですさまじい登りをやってきたのに、どうしてこんなところに林道があるんだと思ってしまうのだが、ともかく立派な林道が通っているのだ。
再び登山道に入る。めざす九折峠までは40分ほどの登りである。これが遠く感じた。
ようやく九折峠に着いたのは10時少し前である。
なんか助かった…という気分であった。
九折峠は草原が広がる開けたところで、ここには避難小屋もあるらしいのだが、見えなかった。
休憩。
この峠から、木の間越しに傾山の岩峰が見えた。
すごい山である。これにはビビッてしまう。こんな鋭い岩峰をどうしたら登れるんだと思ってしまう。
さらにこの峠で休憩しながらガイドブックを読むと、傾山から三つ尾までの縦走はそうとうすごい岩場の連続のようである。
傾山というのは三つの岩峰の頂きをもっていて、その総称を「傾山」というのだ。
最初に越すのが「後傾」である。そこに隣接して「本傾」があって、これが傾山の山頂である。そして本傾から岩峰の稜線を縦走してたどり着くのが「前傾(三つ坊主)」なのだ。ともかくこの獣走路がとんでもなくキケンと言われているのだ。
ただ、この岩峰を通らない巻き道もある。五葉塚というところから水場を通って行く道なのだが、これは山腹をトラバースする樹林の中の道である。
どうしよう、こっちの道にしてしまおうかと思ったりもする。
悩みながらも、ともかく、本傾山頂に向かって出発した。
最初は樹林のなかで、ほとんど傾斜のない稜線の道である。3つの緩やかなピークを越す。
登るにつれて後傾の岩峰が迫ってくる。見れば見るほどすごい迫力の山で、登山道はいったいどこにあるんだと思ってしまう。
岩稜の急な登りが始まる。どうなるんだと思っていたら、道は潅木の中を行き、比較的楽に後傾の山頂に着くことができた。ほっとした。
山頂からは、すぐ向かいに本傾の山頂が見える。10人ほどの登山者休憩しているのが見えた。
こんなにたくさんの人が登っているのだから、大丈夫そうである。
一旦、急な道を下って、鞍部から再び登り返す。山頂には11時少し前に着いた。
景色はすばらしい。
つい、目が行ってしまうのは私がこれから縦走しようとしている三つ坊主への道である。
木が覆っているのだがすさまじく切り立った稜線が続いている。
途中でみた案内板には、ともかくこの道は危険だと書いてある。
食事をしながら悩んでしまった。
私は、自分の岩場の技術がどの程度のものなのかよくわからない。そのために、急峻といわれるコースになると本当に悩んでしまうのだ。
ほとんど悲壮な決意で、当初予定した三つ坊主の縦走コースを行くことにした。
心の中は恐怖と不安でいっぱいである。
まず山頂から少し引き返して、縦走路の分岐に出る。ここから急な道を下る。これは樹林の中の道でたいしたこたはない。傾斜がゆるやかになって、しばらく行くと分岐がある。
右が巻き道で「水場コース」、私は右の縦走コースを行く。指導標には大きな赤い字で「危険」と書いてあった。また、恐くなった。
さて、この縦走コースは、すごい岩場の下りから始まる。ガイドブックでは15mをロープで下ると書かれている。
これはけっこう恐かった。足場の岩は少しもろいようで、ロープもなにかしら心配である。
ここは視界が開けていて、いかにも断崖の中を下るという感じなのだ。
ロープは2段になっていた。ようやく下まで行って、ここからまた樹林の中に入る。
次に待っていたのは、岩の溝の間を10mほど下るところであった。
これもロープにすがって下るのだが、足場が見つけにくくて苦労した。
この縦走路を歩きながら心細くなるのは、コースがあまりはっきりしないことである。木の枝につけられた赤いテープを目印に行くのだが、それが途切れたりすると本当にこの道でいいのか心配になってしまう。
樹林の中の道ではあるが、岩場がけっこうあって、これを越えるのはすごく緊張させられる。
ともかく目の前に現れる岩場を夢中で越えて行くしかなくて、自分が地図のどのあたりにいるのかよくわからなくなってしまった。
最後の岩山に登る。
岩場を登ったところに、木の板にマジックで書かれた案内が下げられていた。
右が三つ尾峠に至る道のようで、左は山頂なのだろうか。ともかく行ってみることにした。
道はザレていて登りにくく、踏み跡もはっきりしない。
登り切ったところは大きな岩の上で、ここから傾山と私が縦走してきた稜線を眺めることができた。そうすると、これが最後のピークということになる。岩稜歩きはこれでおしまいだ。
すばらしい景色を眺めながら、喜びが湧き上がってくる。
やったぞ、という感じである。
何度も悩んでしまったが、縦走できてほんとうにうれしい。満足感でいっぱいである。
ここからはどんどん下って行く。
こんなに下ってしまっていいのかと思う頃に、水場コースとの合流点に着いた。
これで、岩場の道は終わった。
ほっとした。
緩やかな稜線の道を10分ほど行くと三つ尾峠である。私は広場のようになっていると思っていたのだが、道が交差しているだけで、指導標だけがあった。
さて、急がなければいけない。何とか3時前には登山口に着きたい。
ここからは樹林の中の急な道で、ジグザグに下って行く。
すさまじい下りが1時間続く。本当にいやになるころにやっと林道に出た。
これは登りのとき、カンカケ谷を登った後で出会った林道と同じ物なのだ。
再び林の中に入る。どんどん下っていくと、沢の流れを渡る。これが観音滝のすぐ上の流れなのだ。
私は滝が好きである。地図に滝の名前が書かれていると、どんな滝なのかとけっこう楽しみにしてしまうのだ。
この観音滝はすばらしい滝であった。標高差があって、そのすごい落差を水が一直線に落ちている。まさしく観音が真っ直ぐに立っているような感じなのだ。印象としては、ほっそりとした法隆寺の百済観音を思い浮かべてしまった。
ここからひたすら下るとようやく林道に出る。これが九折鉱山からの道で、少し行くと私が登りに使った道との分岐についた。
駐車場に着いたのは2時10分であった。
しみじみと、いい山だったと思った。恐かったけど…
さて、山から降りてきたら温泉に入ることにしているのだが、そんな時間的余裕はない。これから850kmの道を走らなければいけないのだ。
ここから熊本まで行って、そこから高速に乗らなければいけない。
こんなときに限って、熊本の途中で大渋滞であった。時間はどんどん経って行って、せっかく2時に下山できたのに、熊本ICに着いたのは5時であった。
ここから家まで高速を850km走らなければいけない。明日は通常に仕事をしなければいけないのだから、なんとか2時くらいには家に着きたいのだが。
気持ちもあせっているので、普段は100kmほどのスピードで走るのに、今回は120mで走り続けた。さすがにガソリンの消費がすごい。
途中、2度仮眠をして、結局家に着いたのは3時であった。
こうして、今年の九州登山は終わった。
BACK 日本三百名山
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九折登山口

登山口にはトイレと休憩施設があった

林道突き当たりを右に登る

カンカケ谷を登る

林道に出てしまう

標高1200m地点、峠は近い

九折峠

峠からはこんな道を行く

傾山の岩峰が見えてくる

後傾の岩峰が迫ってくる

後傾の直下、杉ヶ峰への分岐

後傾から本傾の山頂を見る

本傾の山頂三角点

最初の岩場を下って振り返る

本傾を振り返る

岩溝をロープで下る

行く手には次々と岩峰が

前傾から本傾を展望する

巻き道と合流する

三つ尾峠

観音滝の上を渡渉する

谷沿いに行く

九折鉱山跡は近い

登山口から傾山を振り返る
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