けかちやま

標高 2414m
片貝山荘→40分→車止め→30分→板菱→30分→大明神沢→2:50→毛勝山山頂

毛勝山は登山道のない山だ。残雪期に雪渓を急登するしかなくて、このため、私には登れない山だと思っていた。
今回ほとんど悲壮な覚悟で登る決心をし、ヘルメットまで用意したのだ。
毛勝山山頂の石仏と三角点

日本百名山も残りが少なくなって、難しいとか遠いとかという山がほとんどになってきた。そこでこの5月のGは登山道のない山を登ることにした。
毛勝山と笈ガ岳である。
この2つの山は、私には登れない山と諦めていたのだが、二百名山の残りが少くなってくると、やっぱり全部登ってみたくなる。

ただ、これを計画するにあたっては相当悩んだ。私の周りには登山をする人間がまったくいなくて、登山はほとんど単独行である。頼る人がいないし、コースのこともわからない。
ともかくこの山行は、自分の技量以上のものに挑もうとしているのではないかと思えてならないのだ。

本はいろいろ調べてみた。読めば読むほど、私には無理だという気がしてきた。
毛勝山は雪渓を登らなければいけない。しかもすさまじく急峻な道らしい。雪崩とか落石も覚悟しなければいけないようだ。
笈ガ岳は歩行時間が13時間もあって、山中で1泊しなければいけない。また、私の技術レベルでは雪のなかのルートファイテングに自信がもてない。
道に迷ったらどうしようかと思ってしまう。
しかし、この2つの山に登ることができるのは残雪期のこの時期しかないのだ。
今年登れなかったら、また来年まで待たなければいけない。
行くことにした。
まず、雪に慣れるために船形山に登ってみた。

そして、落石対策にヘルメットも用意した。
それでも出発する前夜は、よく眠れなかった。
本当にいいのだろうか、こんな自信のない登山をするのは、 初めて冬山に挑戦したとき以来だ。
ままよ、なんとかなるだろう。



2001年5月3日


5月の4連休の初日。本当は今日、登っているはずだったのだが、天気が良くないので明日から登ることにしたのだ。
小山を午後の3時過ぎに出発した。
困ったことが起きた。突然カーナビが使えなくなったのだ。
仕方がないので中部日本の道路地図を買ってきた。

小山から一般道路を走って藤岡まで行き、そこから高速に入った。ところがさすがにGWの軽井沢周辺は大渋滞のようで、これを抜けるのに2時間かかるという。しかたがないので、松井田のICで降りて碓井バイパスを行くことにした。最初は順調だったのだが、峠付近で大渋滞になった。まず登り2車線だったのが、登りが終わったところで1車線になるためこの合流点で渋滞し、そこから数百メートル行ったところが料金所があってここでまた渋滞している。
結局軽井沢を抜けるのに3時間ほどかかってしまった。高速をそのまま行った方がはるかに速かったような気がする。
佐久から再び高速に乗って、上越をめざす。佐久ではまったく渋滞の形跡がなくて、一般道を走ったのは大失敗だったような気がする。更埴のジャンクションで長野道に入り、そこから一路北上して北陸道に出る。
北陸道をひたすら西に向かって走っり、魚津。ここで高速を降りる。
カーナビがないと本当に不便で、地図とにらめっこしながら登山口をめざさなければいけない。
林道をどんどん走っていくと、右にたくさん車が停まっているのがみえて、そこからほんの少し行ったら、通行止めになっていた。
さっきの車がたくさん停まっているところに戻って、そこに駐車。
車のなかで缶ビールを飲んで、寝た。


5月4日

夜が明けると、空は薄く曇っている。
天気予報だと今日は晴れのはずなのだが…。
持ってきたカップラーメンで朝食を済ませる。
登山の準備をしていたら、停まっていた車から登山者が出てきた。登る人がいると判って安心した。
昨日の夜は気がつかなかったが、周りの山には残雪が多かった。
ちょっとドキドキする。いよいよ雪の山に入るのだ。
林道を歩いていく。沢から林道に雪が押し出してきていて、これを越えて歩いていく。
片貝山荘には1時間ほどで着いた。
登山道から川を挟んだ向こうに変電所があって、そっちに向かって橋を渡るとコンクリートの建物が建っている。玄関まで行って確認してみると、看板がかかっていて、そこに片貝山荘と書かれていた。名前からして山小屋を創造していたのだが、外観はまったく違う。それはあたりまえで、片貝山荘は東京電力の寮だったのだ。
ここからさらに道をすすむ。
少し行くと谷が二つに分かれて、右に橋を渡るると、ここからいよいよ毛勝谷である。
川に沿って登って行く。道はほとんど雪に覆われているが、アスファルトの車道で、ジグザグにカーブした道が続く。途中で谷の奥が見渡せるところがあって、そこから雪に覆われた山稜が見えた。あれが毛勝山と思って写真を撮った。後でわかったが、これはまだまだ手前の山で毛勝山は遥かに奥まったところにあるのだ。
甘い。
大きな砂防ダムがあって、このあたりが車止めの場所らしい。
ダムの横を越えると、本格的に登山道らしくなってくる。
雪の斜面をトラバースしながら登って行く。
傾斜が急になって、谷が狭まる。両脇は切り立った崖、ここが「板菱」という所のようだ。
なんか緊張してくる。
ここから傾斜はさらにきつくなる。
もう、このあたりまで来ると、ただひたすら急斜面の雪渓を登るだけである。
大明神沢出合いの少し手前からデブリになっていて、この雪塊がごろごろしている中の踏み跡を辿る。
このデブリを越えるとさらに傾斜が急になった雪渓が広がっていた。
何故か、この登山道は沢の出会いが有るたびに、まるでバージョンアップするように傾斜が増す。
次は二股を目指すが、この登りもすごかった。ここまで、標準タイムの1.5倍かかっている。息が切れてきた。
二股で標高が1600mくらい。ここから山頂までは標高差で800mも残っている。
二股からさらに傾斜が増すので、ここからアイゼンをつけることにしたのだが、ここで大失敗をしてしまった。
アイゼンを付けようとしたら、靴が入らない。
そういえば以前、北海道の川湯硫黄岳を登ったとき、アイゼンのサイズが合わないことがあった。そのときサイズを調整したんだと思い込んでしまった。
大急ぎでアイゼンのサイズ調整に取り掛かった。これが大きなまちがいで、実はサイズ調整をする必要はなかったのだ。
昔のアイゼンは安全対策のためか、ネジの部分をすこぶる頑丈にしてある。ネジが二重になっているのだ。片足を分解するのに30分以上もかかってしまった。
なんとか、ネジを外したところでおかしいことに気がついた。
一度も分解した形跡がないのだ。もしかしたらと思って、もう一度靴につけてみると、ちゃんと合う。
しまったと思った。無駄なことをしてしまった。
そして、こんどネジを締め直そうしたら、むりに外したためかネジ山がこわれてしまっていた。
こまった。余計なことをしてアイゼンを壊してしまった。
どうしよう、アイゼンがなければこの山は登れない。
仕方がないので紐を見つけて、とりあえず接続部を紐で結んだ。これでなんとかアイゼンを靴に装着できたが、紐はいつ切れるかわからない。とてつもなく不安である。
後れを取り戻すために、少し焦って登り始めた。
他の登山者と一団になって登っていたのだが、私がアイゼンをいじっている間に彼らはみんな先に行ってしまって、周りには誰もいなくなっていたのだ。
谷には霧がかかってきて視界がきかなくなった。
焦って登ると、当然ペースが乱れる。息がきれてきた。
しばらくしてようやく霧が晴れてきて、先を歩いている登山者の姿も見えてきた。
なんかほっとした。
稜線の直下で、さらに傾斜はきつくなった。
これはほとんど、垂直な壁が立ちふさがっているようなものだと感じた。
こんなのを登れというのか、と叫びたくなってしまう。
ほとんどバテバテの状態で、最後の壁のような斜面を登る。
ここまで来てわかった。
この毛勝山のすごさは、この標高差1500mのすさまじい急斜面の雪渓を登ることにあるんだと。
雪渓なら白馬とか針の木が有名だけど、この急峻さは比較にならない。
下山してくる人もいたが、かなりびびっているのがわかる。
息をきらしてようやく稜線に辿り着いた。
もう2時近くであった。
稜線ではすばらしいパノラマが広がっていた。
すぐ目の前に剣の岩峰が聳えている。
すごい。
そして雪の岩山がつらなっている。天気は快晴。
稜線の反対側の谷は黒部渓谷のはずだ。そうすると剣から連なっている峰は針の木、蓮華のはずだ。うれしくなってしまう。
来てよかったという満足感。
たっぷり撮影して山頂に向かう。
雪のなだらかな稜線を行く。
毛勝山山頂は広い雪原になっていて、そこからほんの少しだけ下に石仏と三角点があった。
山名の書かれた指導標はなかった。
毛勝山、なにはともあれ、登れないと思っていた山に登れて大感激。
景色もすばらしい。
つい、何枚も何枚も写真を撮ってしまった。
しかし、のんびりしている余裕はなかった。下りに4時間以上かかるというのに、時間はもう2時半である。
下手すると片貝山荘に着くのは7時になってしまう。ともかく急がなければいけない。
下山でまず待っているのは、登りで壁のように見えた稜線直下の雪渓だ。
ガイドにはザイルが必要かもと書かれていた。
稜線からの下り始めは、断崖絶壁から下を見下ろしているようだ。
下りは登り以上に大変だ。恐い。
はるか下に二股が見える。ここからみるとそのあたりが平地のように見える。しかし、考えてみるとあそこまでもかなり急な登りだったのだ。
ともかく、二股をめざして下っていく。
こんな急な斜面は腰が引けてしまったら負けである。
ともかく自信をもって、大胆に下ったほうがいい。注意するのはアイゼンをひっかけないこと。登りは踏み跡を忠実にたどったが、下りは踏み跡を外して下る。尻セードの跡があった。この上を踏んで行くのが歩きやすかった。
二股に着く。315分。これで800mの標高差を下ったことになる。
ここまで下ってさらに下を見ると、やはり急な下りが続いていた。さっきはこのあたりが平地のように見えていたのだが。
さらに400m下って大明神沢出合い。ガイドには山頂からここまで2時間と書いてあったが、1時間で下ることができた。
板菱の少し手前でアイゼンが壊れた。さっき応急処理した紐が切れたのだ。
しかし、助かった。板菱まで来たらもう安心である。
もし、アイゼンが使えなかったら稜線直下の壁のような雪渓を下るのはほとんど不可能に近い。ここまでもってくれて大感謝。
板菱から林道に出るのは速かった。
林道を歩いて片貝山荘へ。
山荘では水の補給をした。ポリタンで2リットルの水を持っていったのだが、今は空っぽ。やっと飲めた水はうまかった。
山荘で水を補給して、車のある登山口に向かう。
帰り着いたのは5時半であった。
山頂から3時間で下ってきたことになる。
大変だったけれども、充実した山行であった。
登れないと思っていた毛勝山に登れたのだ。
車の中で、声には出さずに大きく万歳三唱。

明日は笈ガ岳に登る。


NEXT 笈ガ岳


5:56 林道を雪が覆っている


6:19 片貝山荘


6:45 沢の向こうに雪山が見えてきた


8:14 いよいよ沢を登り始める


8:15 板菱付近の谷


板菱付近の谷。


8:15 あれが毛勝山だろうか





8:57 大明神沢出会


大明神出合で右に行く


9:11 登りはさらにきつくなる


9:50 二股、左を行く。さらに傾斜は増す


10:59 二股上部


12:59 最後の急登、稜線は近い


13:30 2350m付近で下を振り返る


13:45 稜線到着。正面に剣が


山頂の石仏


すばらしい展望


剣岳が目の前に聳えている


急な雪渓の下りが待っている


片貝山荘まで戻ってきた




猫又山への稜線


後立山連峰


剣岳が見えた


剣岳


剣の岩壁


鹿島槍ヶ岳


後立山連峰


後立山連峰

校正 2002/2/9



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