今日は9時間ほど歩かなければいけない。
そして、午後からは天気が崩れそうなので、出来るだけ早く八峰キレットを越えたいと思っている。山頂から下り始める。
ともかく、ここからが本当にすごい道が始まるのだ。
まず、急な下りである。傾斜がどんどんきつくなっていく。滑りやすいザレた道で、かなり慎重に足を運ぶ必要がある。落石を起こさないようにもしなければいけない。
途中、所々で険しい岩場があったりする。
このコースが、距離のわりには3時間もかかる意味がよくわかる。
ようやくの思いで下に降り着いて、振り返るとすごい岩場の下りだったのがわかる。
少し息をつくが、平らな道はごく短くて、再び痩せた岩稜の道になる。
小さな岩場のピークが次々と現れる。雲が信州側から湧き上がってきて、それが稜線を越えて流れていく。その雲の流れは岩峰の向こうのキレットを越えているようだ。
まだたくさんの岩場を越えなければいけないようだ。
1時間半ほど歩いて、一つのピークに登り着いた。
この向こうが八峰キレットのつもりでいたら、とんでもなくて、ようやく半分を消化しただけであった。まだ北尾根の頭だった。
険しい岩場が続く。ともかく、目の前に現れる岩場を夢中で越えるだけである。
ようやく八峰キレット小屋に着いた。
岩場の鞍部いっぱいに小屋が建っている。ずいぶん新しい小屋で、私が昔来た時は小さなもっとみすぼらしい小屋だったと覚えているのだが。
この小屋の正面に剣岳が見える。剣山頂から大きな雪渓が伸びている。
小屋から再び岩場の道を登る。岩峰を越えて下るとすぐに八峰キレットである。
梯子で下る。ここは本当に細い岩の裂け目のようなところで、この裂け目が大きく下に落ち込んでいて、断崖になっている。すごいところである。
八峰キレットを過ぎると、今度は険しい岩場の登りになる。
登りになったらラクな尾根道になるんではないかと思っていたのだが、とんでもなくて、いくつもの岩場を越えて登って行くのだ。
行く手には鹿島槍が大きく聳えている。その険しい岩場の尾根を登って行くのだ。鹿島槍というのは、遠くから見ると双耳峰のたおやかな山に見えるのだが、実際はすさまじい岩稜の山なのだ。
この急な登りでバテて来た頃に、ようやく吊尾根の稜線が見えてきて、そこに指導標が立っているのが見えた。
時々、雲が流れて山頂を隠す。天気は下り坂だ。
吊尾根に着くまでの最後の登りは、けっこうきつかった。ゴールは見えているのに、なかなか辿りつけない。
ようやく稜線に登りついたのは2時。時間を少し短縮できた。
南峰がすぐ傍に聳えている。すさまじく急な道が山頂に向かって続いている。この吊尾根まで登ったらあとはラクな稜線の道と思っていたのに…。
この分岐にザックを置いて、北峰を往復した。
北峰はこの分岐から近い。10分もかからずに山頂に着いた。
山頂から八峰キレットの道を振り返る。我ながらすごい道を登ってきたものだと、感心してしまう。
北峰からは、すぐ隣に聳える南峰がすごい迫力である。
山頂に至る登山道を眼で追ってみると、すさまじく急峻な道で、ここまででかなりの体力を消耗している自分にはけっこうつらい。
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